一歩先んず 第10回

新聞連載
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感動こそ、原動力

いま、東洋ビジネスでは、内外の航空会社に照準を合わせたOCR、OMRの新規需要の開拓を積極的にすすめている。そして、その延長線上に今期は対前年比二〇%成長の年間売上目標十四億円を設定している。
すでに、日航の貨物用送り状フォームの受注に成功、目標に向かって着実な前進を見せている。日航のフォームは、十二枚綴りの高度なノウハウを必要とする技術である。印刷技術的にも二分の一㍉という精度が要求されるものだという。
社内には、ここでも慎重論が多かった。だが、専務の山口桂治郎は、迷うことなく新技術に取り組んでいった。そして事実、大手日航の受注に成功し、明るい見通しをきり拓いた。
東洋ビジネスのモットーは「価値創造」の研さんに励み「品質」の向上に努め「ユーザーへの奉仕」に真心をこめるというものである。
別に目新しいものではないが、その一つ一つを確実に守り、育てているところにチャレンジャー東洋ビジネスの真骨頂がある。
理念に忠実な姿勢、そのあくなく追求、そして時代を先取りし、冒険を恐れない勇気ある挑戦、わずか三十年に満たない東洋ビジネスに学ぶべきものは非常に多い。
社長の山口忠造は次のように述べている。「…白い紙にインクがついているという考え方の時代はすでに終わりました。これからは頭脳的な技術集約、知識的なサービスの集約によって、ユーザー各位のより高度なニーズにお応えしていくことが私どもの使命であると確信しています。私どもは、情報革命の一翼を担う誇りと情熱に燃えて、その社会的使命を果たすべく、創造と研さんの努力をよりいっそう続けていきたいと考えております」
東洋ビジネスを支え、燃えあがらせているものは、印刷革命のリーダーだという自負にほかならない。桂治郎は、簡潔にこういう。
「わが社の社是は〝One Step Ahead″である。常に一歩先んずる前提は〝燃える集団″であり続けることである」と。
そして、社内に向けては、次のように檄を飛ばす。
「○○○だからできないと理由をあげるより、△△△すればできると方法を考えて、まず実行しよう」
東洋ビジネスの営業マンはわずか十人である。一人当たりの年間売り上げは一億円をすでに越えている。〝燃える集団″の核弾頭といっていいであろう。
この〝燃える集団″を率いて、桂治郎はいま、経営トップの責任の重さをひしひしと感じている。
暇を見つけては、人の話を聞き、読書に励む。
常に自己啓発、自己向上を心がけなければ、その責任を果たし得ないと信じているからだ。
「人間、感動する心を忘れてはなりません。感動する心こそ人間のすべての行動の原点だからです」
実際、桂治郎は、自己啓発には一所懸命である。人の話をよく聞くことが自己啓発法の秘訣という彼は、自ら求めて出かけていく。鎌倉円覚寺の夏季大学にも参加した。ある新聞社の文章教室には、若い社員も誘って大挙しておしかけていく。
「人の話を聞くコツは、できるだけ偉い人の話を聞くことです。そういう人の話には、人生のエッセンスといったものがいっぱいつまっています。それに企業トップの話も非常に参考になります。印刷の仕事では、ユーザーのトップと会う機会が多いのも恵まれていますね」
こういって桂治郎は、最近の若い人が本を読まなくなったと残念がる。その言葉の端々に、かつて海の向こうに憧れた男のロマンの香りがただよってくる。このロマンが失せない限り東洋ビジネスの明るい明日も続くだろう。(敬称路)=おわり
<文・道田 国雄>

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